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2次創作 「夏」

季節外れですが。

(5/15 一部修正)




夏休みがニュースになる季節がやってきた。
小学生がもらった通信簿をそっと開いて覗いたり、友達同士見せあう無邪気な顔が、
テレビの向こうから笑いかける。
空から降ってくるセミの声はまるで実体化したように、通る人たちを暑っ苦しく包み込む。
タンクトップで見せびらかす若い女の子の肌、それを意地になって照りつける太陽。
強い日差しがハレーションを起こし、すべてが白っぽく色を失う風景。
暑いと文句を言いながらも、ビアガーデンで飲むビールに、籠いっぱいのセミ捕りに、彼氏に見せるおニューの水着に、夏への期待は高まっていく。

そんな世間の外側で、薪の心は反対に冷えていく。
過去の記憶のはずなのに、未来に繰り返される予感に胸がざわめく。なぜそう思うのだろう。
打ち消しても、打ち消しても、自分が生きている限り、永劫に何度でも繰り返される、予感。
ほらきちんと目の前のものを、認識するんだ。
岡部も、今井も、曽我も、小池も、宇野も、青木も、忙しくはあるが溌剌と捜査に打ち込んでいる、
生きている姿を。
いろいろな脳を見てきたが、危なげなこともなく、確かな結果を出してきた。
このメンバーなら大丈夫、今リスク要素は何もない。
一時は自身でも納得するが、いつのまにか薪の意志から離れて漂う、不安な心。

思い出さなければいいものを。
セミの声が、夕立前の水の匂いのする風が、眩しすぎる木漏れ日が、あの日の記憶を刺激する。
思い出しても、仕方がないのに。
モニター室を出る青木の背中に、2度と戻らないような不安がよぎる。
思い出したくないはずなのに、気がつくと頭の中のモニターで再生している。
見たくないのに見てしまう。まるで自分の限界を自ら試しているように。
聞きたくないのに、耳を澄ます。聞こえるはずがないのに、聞こえてくるのは...。
悲鳴、混乱した怒鳴り声、携帯電話の呼び出し音、そして 数発の銃声。

8月がやってくる。第九が崩壊した、あの8月が。


「曽~我~」
廊下から聞こえるのは、昨日終わった捜査の報告書を今朝提出し、仮眠室で寝ていたはずの
岡部の声。
「曽~我~」
驚いた大声が、一音毎にこちらに近づいてくる。
最後の「~」の余韻と同時にモニター室のドアが、勢いよく開いた。
入口で仁王立ちして、真っ赤な岡部の顔が...。
鼻の頭が真っ黒で、両側のほおには3本のひげがあり、まぶたの上にはパッチリした目が、
マジックで書いてある。

驚いて入口を注目した全員が、一瞬の静寂の後爆笑した。気だるい午後の空気が吹き飛ぶ。
曽我:「岡部さ~ん。やっと気がつきましたか。ギャハハハ」
小池:「ウヒャヒャ、腹いて~。曽我、おまえ芸術の才能あるよ。」
今井:「あはははは、よく似合いますよ。岡部さん。」
曽我:「だって岡部さん、本当ーによく寝てて。これだけ書いて、全然気がつかない方も悪いんですよ。
    ヒーヒヒヒ」
岡部:「曽~我~。こんな事するの、おまえしかいないからな~。
    俺はこの顔でトイレ行ったんだぞ。すれ違う人、すれ違う人、なんで笑うのかな?とおもってたら。
    鏡を見て仰天した。おまけに、洗っても落ちないし。
    どうしてくれるんだ~。」
烈火のごとく怒っている様と素っ頓狂な顔との落差に、岡部以外は一層腹を抱えて笑い転げた。

にぎやかなモニター室の様子に、薪が室長室から顔を出す。「どうした?」
薪の声に振り返った岡部の顔を見て、薪も笑いだした。
「っぷ、なんだ岡部、その顔は。フフ..ハハハハハ」

声をたてて笑う薪の様子に、岡部の怒りがふっと緩んだ。
薪さんが、声を出して笑っている...。
すぐったいような、誇らしいような、ふわっとした感触と、ささやかな安堵。
思いがけない小さな報酬に、心にともった小さな灯り。
思わず綻びかける頬を、薪に気がつかれぬよう引き締めて、岡部は一層怒った顔を皆に向けた。

顔を洗いにモニター室を出た岡部は、先ほど心にともった灯りを、誰はばかることもなく反芻する。
薪さんの笑顔は、5分と持たないんだろうけど、良かった。なんだかよく分からないけど、良かった。
体は、ただ心に従うだけでない。体が先で、心が後から付いてくることもある。
薪さんが彷徨う迷路は、自身でしか出口を見付ける事が出来ないから、歩き疲れてしまったら、
その時は体で笑ってみればいい。
きっと心もエネルギーを補充して、歩き続ける事が出来るから。そして、いつかは出口にたどり着く。


室長室に戻った薪は、岡部のかすかな変化に、気が付いていた。
ふっ、ぼくが笑うのが、そんなに珍しのか、岡部の野郎。
それにしても、そんなに心配されるとは。ぼくもまだまだ、だな。
曽我の傑作である岡部の顔を思い出し、クスッと笑った。

窓から空を見上げると、もくもくと成長を続ける入道雲と、空が映る。
さっきまでは、白っぽく色を失っていたような空も、今は少し青さを取り戻したかのように見えた。

(完)




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コメント

【 おまえら、いくつだ(@@; 】
そ、曽我ったら、なんということを・・・(@@;
小池も~。今井まで~!!
薪さんまで、笑わないで下さい。
今後、あなたを笑わすために、みんなで顔に落書きをしなくてはならなくなるじゃないですか!
 岡部さん、落ちました?
>8月がやってくる。第九が崩壊した、あの8月が。
 そうなんですよ。
 去年の夏は、A Piece of Illusion でした。今年の夏は(あ、違った。2062年の夏は)、鈴木が死んで丸3年なんですよね。なんかありそうで、ドキドキします。
【 Re 】
第九の部下Yさん、いらっしゃ~い
> 今後、あなたを笑わすために、みんなで顔に落書きをしなくてはならなくなるじゃないですか!
ちょっと子供っぽかったかな。
でも、薪さんに無邪気に笑ってもらうのに、これしか思いつかなかったんです~。
>  去年の夏は、A Piece of Illusion でした。今年の夏は(あ、違った。2062年の夏は)、鈴木が死んで丸3年なんですよね。なんかありそうで、ドキドキします。
2009が次回で終わるとなると...。 
copy catの延長話? あれって、中途半端ですけど、再開っていうのも唐突だし。
2009ですら、次回の予想が全くつかないのに。
ドキドキしますね。
とにかくどんな話であっても、メロディ読み終わった直後から、また長く苦しい2カ月が始まるんですよねぇ。
【 岡部の存在。 】
おはようございます、すぎやまださん。
岡部×薪バナー、使ってくださってありがとうございます。
あれからも来てましたよ。
すぎやまださんの薪さんは、
いつも厳しくつらい現実に直面しているんですよね。
でも、そばに居て見守る岡部や第九メンバーの存在が、
すごくやさしくて、私はそれに癒されるんです。
やっぱ、岡部さんの存在が、救いかな?
そこにすごく共感するんです。
すぎやまださんの小説を読んでいて、こう聞こえるんです。
「薪さん。貴方が重い荷物を負うのは仕方ないんですよ。
それを忘れろなんて、それを放り出せなんて、言いません。
ただ、俺たちがそばにいることを、たまには思い出して欲しい。
あなたは一人なんかじゃないんですよ。
重い荷物は独りで持たなくてもいいんですよ。
俺はずっとそばに居ますから」
なので、私もそう思うので、すごく共感するんです。
通わずにはいられません。d(≧▽≦*)
岡部さんって、すぎやまださんにとって、
薪さんのお母さんなんですね♪
【 Re 】
夜子さん、いらっしゃいませ~
岡部×薪バナー、ルンルンで張らせていただきました。
あれ一枚で主張が一目でわかるなんて、使ってみると便利なものです。
ありがとうございます。
おお、私のパープリン妄想に共感していただくなんて、感激です!
そうなんですよ。岡部さんって、薪さんのお母さんなんです。
だから、岡部さんから薪さんに要求する物はなくて、ただ薪さんが幸せならいいんですよ~。
夜子さんなら、わかっていただけますよね。
ああ、岡部さ~ん。
へんてこりんな話ばかりですが、少しでも喜んでいただければ嬉しいです。
またお越しくださいね。
【 曽我さん、GJ 】
薪さんが笑った~~。
なんか、それだけで幸せ。
きっと、岡部さんも第九のみんなも、同じ気持ちですよね。

曽我さんは、KYに見せかけて、実は優れたムードメーカーだと思います。
【 Re: 曽我さん、GJ 】
まいどです~

> 薪さんが笑った~~。
> なんか、それだけで幸せ。

私も、それだけで幸せです。
(あ、痛い薪さん見るもの、幸せですけど)

> 曽我さんは、KYに見せかけて、実は優れたムードメーカーだと思います。

KYは、時によっては最強ですものね。

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