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2次創作 「冷たい方程式 3」

このお話の前提は 「冷たい方程式 1」の【状況説明】を参照ください。



岡部船長の場合

「薪さん!」 岡部は思わず叫び声を上げた。
かつて職場で上司と部下であった2人が、こんなところで会おうとは。
「岡部! おまえ貨物船の船長になると言っていたな。ということは、ここは貨物船か?」
そうです。
「貨物船だったら、ギリギリの装備で航行するはず。お前、なんで僕を拾った?」
いや、人が乗っているなんて思わなくて。
あ、これは 【冷たい方程式】って奴ですね。まずいなあ。

「岡部、今は概算でいい。
 2人乗船できるのは、あと何時間ぐらいだ?」
エーと、燃料と酸素の残量を考えると....24時間ぐらいです。
「そうか、24時間で何とか対策を見つけなければならないな」

2人は狭い操縦室にもぐりこむと、情報端末をそれぞれ起動した。
薪が矢継ぎ早に尋ねる基礎データを、岡部は懸命に探し加工して、薪の端末に送る。
燃料残量、酸素消費率や二酸化炭素吸収素材の稼働率、重力傾斜地図、この船の機能詳細
近隣の小惑星帯や付随する施設の情報、etc、etc
薪の端末は次々とwindowが開き、重なっていく。
そのデータをピックアップしながら関連付け、有効そうなデータをシミュレータに放り込む。
最低限の会話と、キーを叩く音しかしない数時間が過ぎる。
作業密度の濃さと長さに、岡部がギブアップしかけた頃、薪の指が止まる。
どうやら、思いつく限りの対策/行動と、そのシミュレーション結果が出尽くしたようだ。
「ふう」
薪は岡部を自分の端末へ呼ぶ。
「岡部、大体結論がでたぞ」

岡部には途中経過は良く分からなかったが、まだ数多く開いているwindowの
シミュレーション結果が言わんとしていることは理解できた。
重力傾斜を利用しての減速や、寄り道して資源を調達、通信時差を考慮した上での救助の要請、
超長期間かけた減速を前提とした仮死状態での移動....
いろいろな行動案が出ていたが、いづれにしても結果は同じであった。
結局、どうやっても、2人共に助かる方法は無いようだ。

端末をじっと見る岡部をそのままに、薪は2人分のコーヒーを運んできた。
岡部の分を机に置くと、自分はいすに深く座りこんで背中と首を背もたれに預け、目を瞑る。
両手はカップを包み込んで、温かさを楽しんでいるようだ。
しばらくして目を開ける。岡部をまともに見上げながら、言った。
「結論を出すときが来たようだな。
 僕がエアロックに入ったらドアを閉めて、船外に放出しろ。
 どちらかが出なければ、どう行動しようと共倒れになる。
 お前の船なんだから、僕が出る」

岡部は薪の瞳を見返す。岡部自身が映りこんでる以外、なにも語らない冷静な瞳。
自分の生死を論じるには、あまりに人事のようなその態度。
久しぶりに会った薪は、以前となにも変わっていなかった。
岡部は突然怒りを覚え、思わず両手で机を叩く。コーヒーカップが見事に飛んだ。

薪さん、あんた何のために生きてきたんですか。
鈴木さんの意思を継ぐためですか。
語る前に死んでしまった死者の声を代弁するために生きて、最期は俺のために死ぬんですか。
あんたはいつもそうだ。
自分のことは2の次で、いつも何かに追い立てられて、キリキリしている。
他人が心配する事さえ、許さない。
周りがどれだけ迷惑しているか、分かっているんですか。
そんなあんたを見ていて、心配するなと言う方が無理なんですよ。
俺が心配すればするほど、薪さんあんたはそれを拒む。
拒んで、平静を装って、もっと無理をする。
薪さん、たまには自分の本心に耳を傾けてみたらどうです。
最期の最期ぐらい、ダダをこねてみたらどうなんだ。 え?

岡部らしい怒りの爆発に、薪は第九での様子を思い出し、思わず微笑んでしまった。
岡部の方も、一通り言いたい事を言い尽くしてしまうと、もう言葉が続かない。
「岡部らしいな。お前の怒った姿、ひさしぶりだ」
薪の静かな声に、岡部は感情を爆発させた事が恥ずかしく、思わず顔を赤らめる。 

「お前の言う事ももっともだが、ダダをこねるのは5才の時、やめる事に決めたんだ。
 それに、僕も無理しているわけでは無いぞ。
 このままで、2人とも無駄死にすることは論外だ。
 そして、僕がお前を死なせる事は絶対できない事も、
 いままでの僕を知っているなら分かるだろう? 岡部」

今回はアクシデントではあったが、薪の方に責がある。
おまけに、この船の船長は自分である。
どう考えて見ても、この場合は薪が退船する以外にない。
本当は自分が退船してすむなら、そうしたい。が、薪はそれを許さないだろう。

岡部は迷った。
自分が残った場合、薪が残った場合。死ぬ者と残る者の、それぞれの人生。
もし実力行使で阻止するならば、薪は自分にかなうはずは無い。
薪を縛り上げでもすれば、自分がエアロックに入る事は出来る。
しかし...その後の薪さんは、どうなるんだろうか。
きっと自分を責め続ける。一生涯かけて。薪さんの冷徹な思考は、狂う事すら許さないに違いない。
薪さんにはそれは、死ぬより辛い事になるだろう。鈴木さんの時以上に。
岡部はさんざん考え抜いた挙句、薪の結論を受け入れた。

「結論が出たなら、さっさと実行するか」
というと、薪はエアロックに向かった。
岡部はだまって、薪に従う。
エアロックのドアを開けるボタンを押しかけて、ふっと手を止めた薪が岡部を振り返る。

「岡部はそう言うが、僕も楽しく生きてきたぞ。
 岡部に世話かけるのも、結構面白かったし。
 すぐ顔に出るから意地悪しがいもあったしな。
 
 岡部はいつも僕を見ていてくれた。見ることの愛、を教えてくれた。
 僕は、岡部だけには「見て」もらう事が出来た。鈴木以外には岡部だけだ。
 見られる事にも愛があったんだぞ。僕の愛が。

 岡部がいたから、鈴木や貝沼の事があっても、ここまでこれたんだ。
 最期に、「残る」という辛い決断をさせてすまなかったな。
 僕が一番恐れていたのは、岡部が力ずくでこの結論を阻止する事だった。
 僕のことを思って、この結論を受け入れてくれたんだろ。分かっている。
 ありがとう。」

窓が無いエアロックのドアを開けると、振り返ることなく薪はドアを閉める。
岡部が最期に見たのは、背筋を凛と伸ばした薪の背中だった。
ドアを閉じて数秒すると、外壁側が開いて空気が外に放出されたかすかな振動が、壁伝いに響く。

岡部は思わずドアにすがる。
かすかな振動を感じると、膝が床まで落ちる。
岡部は 自分が号泣していることにも、同じ言葉をひたすら繰り返していることにも、
気づいていなかった。
「薪さん、薪さん、薪さん、薪さん....」



ああ、すみません。とうとう薪さんも、殺してしまいました。


「見られる事にも愛がある」 : 出典 「箱男」(安部公房 著)



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コメント

【 ちくしょーー!! 】
すぎやまださん、こんにちは。
暴言から始まってすみません……

わかってはおりましたが、
岡部さん編が一番良かった……

岡部さん、かっこいいです。

ちくしょーー!!

「箱男」って、ずっと箱の中で生活?してる人の話しでしたっけ? 面白そう……

失礼しました。

【 死んじゃだめ・・・。 】
すぎやまださん、こんにちは。
「冷たい方程式」の3部作・・・それぞれ考えさせられました・・・。

青木・・・イタすぎる。(色んな意味で)
鈴木・・・優しすぎる。(やっぱり鈴木さんだ)
岡部・・・悲しすぎる。(・・・・・・・・号泣)
    ↓ ↓ ↓
薪さん・・・死なないで・・・!
(やっぱりそれかい!!!)

漢字がいっぱいでおめめがパチクリしましたが、すぎさんの世界、堪能させていただきました。
ありがとうございました!!!



【 Re: ちくしょーー!! 】
いつもありがとうございます。
res遅れてすみません。

> 岡部さん編が一番良かった……

えへへ、そうですかぁ。うれしいなぁ。
この3名でそれぞれの最期だけは決まっていたのですが、
そこにいたるまでがなかなか出来なくて。
私の妄想各位の、薪さんの愛し方の違いを書いてみました。

> 「箱男」って、ずっと箱の中で生活?してる人の話しでしたっけ? 面白そう……

そうなんですよ。結構好きな話なんですよ。

【 Re: 死んじゃだめ・・・。 】
いらっしゃいませ~ みひろさん
返事遅れて、ごめんなさいね。

> 「冷たい方程式」の3部作・・・それぞれ考えさせられました・・・。

いろいろ感じていただけたようで、嬉しいです!

> 薪さん・・・死なないで・・・!
> (やっぱりそれかい!!!)

やっぱり、それですよ!
こんなこと書くと、ハブにされそうな気がして..ブルブル
でも、書いちゃいました。

> ありがとうございました!!!

いえいえ、こちらこそ読んでいただき、ありがとうございます。
【 岡部さん・・・orz 】
すぎやまださん こんばんは
「冷たい方程式」3部作読ませていただきました!
こういうSFがあるんですね、面白そうです(>_<)

三者三様、とっても「らしく」てよかったです!!
1話目「あおきぃぃぃ!?」 (@_@;;)
2話目「すずきぃぃぃ!!!」(TΔT)
3話目「お・・・おか・・おかべさん・・」orz
こんな感じでした・・・。やっぱり岡部さんが1番よかったです・・・。1番キツクて優しい選択肢を取りましたね・・・・。あうぅぅ(T_T)でも薪さんが・・・。
【 Re: 岡部さん・・・orz 】
おう、いらっしゃいませ、わんすけさん

> 三者三様、とっても「らしく」てよかったです!!

えへへ、ありがとうございます。
ちょっと青木さんには気の毒でしたが。

> やっぱり岡部さんが1番よかったです・・・。1番キツクて優しい選択肢を取りましたね・・・・。あうぅぅ(T_T)でも薪さんが・・・。

岡部さん、好評のようで 嬉しいです~。
でも薪さん殺しちゃったから、amazonで防刃ベスト買わなきゃ....
会社帰りにでも「薪さんの仇」 と刺されそうな気がしてます。
【 うわーん 】
岡部さんでも、救うのは無理でしたか(><)
でもそこまでの2人の葛藤が…泣けました。
やはり岡部好きのすぎやまださんの作品です。

私も3が一番好きですね(^^)
【 Re: うわーん 】
いらっしゃいませ、めぐみさん

> 岡部さんでも、救うのは無理でしたか(><)

はい、おかべっちの薪さんへの愛をもってしても、物理法則は不変です。

> 私も3が一番好きですね(^^)

おお、この3部作では岡部さん一位になりそうですね。
ちょっと意外です。 (人気は 青木さんは論外として、鈴木さんかな と思ってました)

またお越しくださいね~
【 岡部さーん! 】
岡部さーん!大好きだー!!

ここまで薪さんのことを解ってるのは、岡部さんだけです。
前の2人を非難するわけじゃないんですけど、青木の場合、これからの生活はどうするんでしょう?オートメイル?青木の不自由なからだを見るたびに、薪さんは自分を責めますよね。
鈴木さんの場合はもっとキツイことに。
死んじゃイヤ、という気持ちはもちろんわたしにもありましたが、死ぬより辛い人生って、それをずっと生きてきたひとにさらに重荷を背負わせるって、果たしてやさしさなのかどうか。

そして。
見られる愛、ですって!!
薪さんから岡部さんへの愛の告白が聞けて、本望です。
岡薪のすぎさんらしく、この話が一番長くてリキ入ってるのが、愛、ですね。
これ、立派なBLだと思います。(褒め言葉ですよ、念のため)
【 Re: 岡部さーん! 】
こんにちわ、しづさん
返事遅くなり、すみません。

「冷たい方程式」読んでいただき、ありがとうございます。
まとめてコメレスさせていただきますね。

・青木船長
 そうですね。常に誰も不幸せにならない方法を考える人ですね。
 だけど... うちんとことの青木さん、若造だから今一つ考えが甘い、というか。
 薪さんフォローがないと、こんな不幸な結果に... ああ、ごめんなさい。
 (この時代なら、義手等あると思いますが...)

・鈴木船長
 おっしゃる通り、優しい人だと思います。
 しかし往々にして、自分を犠牲にするのが一番簡単な解決方法だと思うので、
 少々短絡的、かもしれません。

・岡部船長
 へへ、確かに一番力入れました。 岡部さ~ん。
 BL、確かにloveですね。褒めていただき、てれるなぁ。

またお越しくださいね。

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