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2次創作 「夜桜」

この時期は、桜で一つ書きたくなりますね。
私の脳内妄想薪さんは、ぐちゃぐちゃと女々しい奴です。


薪は本庁との調整会議を終えて、一人深夜の研究所に戻ってきた。
もっと早く戻る積りであったため、第九の仕事を残したまま本庁に向かったのだが、
思いがけなく紛糾した会議は、予定を大幅に超えてやっと終了した。
少しでも早く戻るため、研究所の裏口から中庭を抜ける近道を選択した薪は、
中庭を足早に通り抜けてゆく。

その薪の足が、止まった。

中庭には、一本のソメイヨシノの古木が、大きく枝を広げていた。
そこにあることは知っていたが、忙しさにまぎれてその存在は忘れていた桜。
今、まさに満開を誇っている。

ちょうど頭上にかかった上弦の月は、桜をほのかに照らしてた。
満月とは程遠いその光量は申し訳程度しかなく、道をたどるのは研究所に面した街灯の、
こぼれた明かりだけが頼りになる。
そんなおぼろな月光を受け止めて、桜は自ら発光しているかのように、白さを際立たせていた。
花全体がまるで空中に浮かんでいるように、ぼんやりとかすみがかって、
しかし白い炎が陽炎で揺れているのかと思えるほど、光っていた。

薪は急いでいることも忘れて、思わず桜と向かい合った。

昼間でも訪れる人が少ない中庭、ましてや深夜には誰も通らない。
たまたま薪が通ったが、普段は誰一人気づかれることはなく、ひっそり盛りを終えるであろう。
古来から魔が住むとまで言われている、その壮絶な美しさを誰も知ることがないままに。

誰も見る人がいなくても、君は黙って咲き誇って散っていく。
君はさびしくないのかい?
そのために1年耐えてきたのだろう?

「確かに1年間、私は耐えてきました。
 初夏の新芽をモンクロシャチホコに食べつくされれも、何もできずに傍観するだけ。
 夏の強い日差しに耐え、冬の木枯らしをやり過ごし、踏み固められた地面では
 呼吸がとても不自由で。
 その代償はせいぜい2,3日の満開の美しさ。

 でも誰にもその苦しみや耐えた事なぞ、伝えなくてもいいんです。 
 己が知っているだけで、十分です。
 咲き誇る姿を、誰も知らないかも知れまません。
 だけど己は知っています。どんな苦労に耐えてきて、どんなに綺麗に咲いたかを。
 胸を張って咲くことができるなら、それで十分報われます。」

だれに知ってほしいと、思う気持ちはないのかい?

「もちろん寂しく思うこともあります。辛い気持も芽生えます。
 盛りの姿を誰かに感嘆されるなら、より誇らしく思うでしょう。
 だけど、結局問われるのは自分が自分に誇れるのか。
 私はそう思って、咲いています。」

そうか、ぼくも見習わなくてはいけないな。
自分自身の生き方は、自分自身で決めるもの。自分が自分に誇れるのか、か。

だけど、ぼくは時々辛くなる。
だれかにこれを伝えたい、そして共感してほしい気持ちが、湧いてきて。

でも...怖いんだ
人と関わりあって、生きていくことが。
ぼくが伝えて、人から伝わって、ぼくが思い、人から思われて。
そんな関係が生れかけると、ぼくは人の人生を変えてしまう恐怖に、思わず身がすくんでしまう。
そう思うことは、自分の傲慢だとは分かっている。
だけど、足がすくんで先へ進めなくなってしまう。

それに....関わりあうもうその方法も、もう忘れてしまったかもしれない。

「それは、あなたが人だから。
 私はここで咲いてる桜です。枯れるまで、ここで一人で人生を送ります。
 でもあなたは人だから。
 決して一人では生きていけない濃密な社会の中で、暮して行かなければなりません。
 今までも、これからも。
 あなたが思うことは人として当然なこと、必要なことです。
 
 足がすくんでしまうなら、そのままでもいいでしょう。
 私に伝えて私が共感して、それであなたの気が済むのなら、いくらでも聞きますよ。
 ただ、私があなたに言えるのは一つだけ。
 後悔を残しつつ生きていて、自分が自分に誇れますか。」

ここで薪は、ぼーっと桜を眺めている自分に はっ と気がついた。

ふっ、なんて感傷的なんだ。桜と話をするなんて。
結局自分を投影しているだけで、自問自答していることに他ならないのに。
自分自身を鼻で笑いながら、踵を返して第九に向かった。

道々自分をあざ笑う気持ちになりながらも、ひとつ心の底で決めたことは変わらなかった。
来年もぼくは満開の君を見る。少なくとも、ぼくは君が美しいことを知っているんだ。

(完)



桜を見ると、妙に感傷的になります。 
女々しい薪さんで、すみません。


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コメント

【 好き~ 】
すぎやまださま こんにちは

うふふ。
桜さん、なかなか厳しいお方ですね。

迷って悩んでつぶれそうで、それでも進んでいかなくてはならない薪さんの心情がとても素敵でした。
結局、薪さんも、甘やかしてほしいわけではないのだと思います。
【 Re: 好き~ 】
いらっしゃいませ~

> 桜さん、なかなか厳しいお方ですね。

そうですね。桜の「凛とした綺麗さ」=「己に厳しい毅然とした気持ち」を感じます。

> 迷って悩んでつぶれそうで、それでも進んでいかなくてはならない薪さんの心情がとても素敵でした。
> 結局、薪さんも、甘やかしてほしいわけではないのだと思います。

おお、そこまで分かっていただけるなんて、嬉しいです~。
おまけに一行に要約していただけるなんて。
第九の部下Y さんは、私の心が読めるのか? なんて思っちゃいます~

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