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2次創作 「渓流釣り」

えー、本当は「2人の薪」の続きを書かなきゃならないのですが...
逃げてます。 
でも連休だし、たまには遊んでもらおうかな、と思いまして。




薪が珍しく岡部を乗せて、車を走らせている。
今日の待機当番は今井で、薪も岡部もそろって休日になった日曜日。
話のとっかかりは忘れたが、最近始めた渓流釣りの難しさを薪が力説し、海釣り好きな岡部が
「釣りは釣りですよ。そんなに難しいもんですかね。」と薪の腕前が悪いように言ったのが、きっかけだったか。
次の揃った休みには、岡部も一緒に渓流釣りへ行くことになった。

まだ暗いうちから出発した2人は、車がすれ違うのも難しい山道をゆっくりと上がっていく。
道際の草木は何を遠慮することなく枝や葉を伸ばしていて、通りがかる車をパシッと叩く。
これこれ、こんなところまで車を持ち込むんじゃないよ。歩いておいで、歩いて。

途中で車を降りると、あとは川沿いに歩いて上流へ上る。時には川岸を、時には川の中を。
苔がついた岩は滑りやすく、一歩一歩に集中すると、自然と無言になった。
渾然とした野鳥の地鳴きに混じり、ウグイスの「ケキョウ」やミソサザイの「ピチュピチュ」というさえずりが、時折ひときわ高く響く。
他に耳に入るのは、渓流の瀬音、踏みしめて石が軋む音、そして2人の荒い呼吸音。

4月の山はまだまだ寒い。弾む息が白く立ち昇り、朝日に光る。
冷えた空気はガラスの粉をまぶしたようで、不用意に思いきり吸い込むと胸が痛む。
それでも澄んだ大気は、呼吸するたびに体が浄化されるようで、胸の痛みも気持ちが良い。
時折上を仰げば、芽吹きがかった枝々を透かして見える、霞がかった早春の空。


木立が後退し、少し開けた川岸へ出た。川は広く緩めの瀬になっている。
「岡部は初めてだからな。振りやすい様に、開けたここで始めるか。
 朝のライズが始まるまでに、準備を済ませたいしな。」
薪は2本のロッドを手際よく準備した。

「まずはキャスティングだ。」
薪は太いフライラインをリールから繰り出して足もとにうねらせると、ロッドを振ってキャスティングの見本を見せる。
数回振ると、糸は自らが意思を持つようにするすると長く伸びて、空中に綺麗な横Uの字を描く。
「ロッドを振って、ラインの重さを利用してラインを繰り出して」
そのままロッドを前に振り込むと、まっすぐに延びたラインは、音もなく先頭のフライを川面に浮かべた。
「十分な長さになったら、ラインの重みでそのまま前へ送ってやる。
 わかったな。」
なんというか..、とても端折った説明。
でも釣り好きのプライドが「分からない」など言わせるはずもなく、岡部は無言でうなずいた。

薪はフライケースから、疑似餌がついた針を指でつまみだすと、「フライを糸の先に付けろ」と岡部の手のひらに乗せてやる。
フライは大きさが1cmにも満たなくて、指から指ではとても渡せない。
「薪さ~ん。小さすぎてフライがうまくつまめません。」
「岡部、ほんとーにおまえは、不器用だな。
 ま、春先はこの#18ぐらいの小さな針を使うから、おまえの指には確かに難しいだろう。
 仕方ない。」
薪は仕掛けを手繰って、糸先を探り当てる。岡部の手のひらから、フライを取り戻した。
硬質な指先が、穴に糸を通して輪を作る。白く細い指が躍る様に動き、ゆっくりと糸を引く。
ベストからクリッパーを取り出すと、あまり糸をパチン と切った。
目の前に持ち上げて、満足げに仕上がりを確認する。
「ほら、これで振ってみろ。」

岡部がロッドを振ってみたが、糸が全然繰り出さない。
「薪さ~ん。足が糸を踏んづけてて、糸が出ません。」
「ばか、じゃ足をどけろ!」
足の置場を探して岡部が下を見たとたん、振る方がおろそかになった糸が、後ろの草に引っかかる。
「薪さ~ん。糸が引っ掛かりました。」
「ばか、いちいち報告するな。はずして振り直せ。」
どうにかキャスティングまで持ち込む。
岡部が渾身の意気込みで振り込んだにもかかわらず、ラインはうねうねへなへなと水面にとぐろを巻いて、おまけにラインの先にあるべきマーカとフライが見当たらない。
「薪さ~ん。釣り針がありません。」
「大ばか者! 振っている途中でフライが枝に引っかかってラインを切ったんだ。
 お前、針なしでどうやって釣るんだ?」


「これ以上お前にやらせると、僕が釣る暇がなくなる。
 貸してみろ。」
岡部からロッドを取り上げると、薪は再度マーカを付けフライを結び直した。
川面に向かい、フライを落とす先を決める。ああ、あの流れの際がいい。
その距離に合わせて、ラインを足元に落とす。左手でラインを取る。
右手のロッドを前へ軽く振って、フライを近くの水面に落とした。
フライを落とす先を真剣に見つめる。右足を軽く前へ出し、スタンスを取る。
ロッドを立ててそのまま後ろへ。ロットの先がしなる。ラインが後ろに伸びていく。
ラインが後ろに一文字を描いたその瞬間を、ロットの手ごたえで感じると、そのまま前へ振る。
ラインはその勢いで、ロットの先を通り過ぎて前へ前へと進む。
フライがラインの先頭になると同時にフライは、フワッと水面に浮かんで流れに乗った。

「これで上流に向かって泳ぐイワナの鼻先まで、フライを流してやる。
 流れきったら、ラインをほら。」
とロッドを上流に向けて横に一振りし、
「フライを上流に置き直す。出来るな。」
有無を言わさず、薪はロッドを岡部に渡した。

薪は距離をあけて、自分も釣り始める。
キャスティングする薪を、やっと谷底まで差し込んだ光が照らし出す。
ラインやロッドが空気を切り裂く音もなく、すべては無音の中。
茶色がちな髪はより明るく輝き、柔らかな頬を協調する。
真剣な瞳はフライを落とす先から、動くことなく。
唇だけが、振り込む瞬間、掛声をかけるように薄く小さく開いて閉じた。
岡部は明るい日の光の中の、静かで穏やかで真剣な薪を、新鮮な思いで眺めた。

と、岡部のマーカの先で水面がぬめっと盛り上がる。一瞬背びれらしきものが見えた。
魚がフライに食いついた。マーカが沈む。本能的にロッドを上げる。
ビクビクっとした重さが、ロッドから伝わる。
「薪さ~ん。掛かりました!」
薪はロッドを置きながら、岡部を見てどなる。
「岡部、リールを巻くな、リールを。テンションかからないじゃないか。
 ラインを直接たぐって、取り込むんだ。」

一度魚が掛かってしまえば、さすがに岡部は魚とのやり取りは慣れていた。
魚が一気に逃げる。細いラインが切れそうにきしむ。
ロッドを下げて、ラインの緊張を緩める。
魚はゆるんだ糸に、反転しつつ頭を振って振り切ろうとする。
力を逃がしながらも、テンションを保つ。
魚は左右に泳ぎ、逃げる方向を探る。
ロッドを魚の動きに従わせて、力が弱るのを見計らってラインを手繰り引き寄せる。
魚はそのまま引き寄せられる と思わせておいて、岸の間際ですべての力を一気に爆発させた。体をくねらせ、川に戻ろうとする。
その瞬間を、ロッドを寝かせて耐える。
魚は力尽き、そのまま薪が用意したネットに取り込まれた。
独特な、体側の小判型の模様が美しい。

「ビギナーズラッキーだな。これは大きいヤマメだ。
 ラインを切られたりバラすことなく、よく取り込めたな。
 案外、岡部もやるじゃないか。」
案外だけ余計だと思いながらも、薪の言葉と大きな獲物に、すなおに岡部は喜んだ。
「薪さん、ヤマメって焼くのが一番ですかね。」
「おまえ... 食べるのか?」
「え? 食べる以外、どうするんですか?」
「僕はリリースする主義だ。ここは僕の主義にしたがってもらう。逃がすぞ」
「えー! もったいない。これは俺の獲物ですよ。」
「うるさいぞ、岡部。
 ...そうだ、これだけ大きなヤマメは、ここらあたりのヌシかもしれない。
 おまえ、ヌシを釣り上げると祟られる、っていうぞ。いいのか?」
岡部が案外怖がりなのを知っていて、薪はそういうとニヤっと笑った。
「....」
しぶしぶと、岡部は無言で賛成の意を表す。

薪はカンシのようなフォーセップを取り出すと、ヤマメに触れることなく針を外す。
ヤマメは大きく体をくねらせて尾びれを一振りすると、すっと川の流れに消えていった。

ヤマメを見送って、立ち上がった岡部が言う。
「案外難しいものですね。フライフィッシングって。」
「ああ、だけど難しいから面白いんだ。
 魚をどうだますか、の知恵比べだからな。」
と言うと、薪は岡部を見上げて、おかしそうに笑った。
「おまえは知恵比べの前に、不器用を何とかしないと無理だな。」

岡部はその薪の顔を見て、決意した。
リベンジに薪さんを海釣りにさそってやる。そうだな、引きがつよい青物の船釣りがいいかな。
薪さんが竿ごと海に引きずり込まれても、俺はぜーったいに助けないぞ。

(完)


へたれえは管理釣り場専門で、渓流釣りなんて大変なことはしないので、すべては妄想です。
事実と違う部分多々ありますけれど、あしからず。

唯一真実なのは... 岡部さんの失敗の数々。
すべて経験済みです。


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コメント

【 つり~ 】
すぎやまださん、こんばんは

岡部さんは、そうです。海釣りなんです!
(なぜ、海釣り・・・なぜ、船釣り)

朝の3時から船に乗って出かけるんです。

・・・って私は釣りは、釣り堀のマスしか釣ったことないんですけど(そして、焼いて食べた)

海も川も何種類もあって、「釣りは釣りですよ」って言いたくなります。

薪さ~ん、薪さ~ん、って、うちの息子みたいで、それにイライラする薪さんに笑っちゃいました。
【 Re: つり~ 】
いらっしゃ~い、第九の部下Yさん

> 岡部さんは、そうです。海釣りなんです!
> (なぜ、海釣り・・・なぜ、船釣り)
> 朝の3時から船に乗って出かけるんです。

そう、なぜか岡部さんには海釣りが似合うんです。
内海の関西より外海に面した関東の方が、船釣りにいい場所が多いし。
充実した釣りライフを、楽しんでいそうです。

> 海も川も何種類もあって、「釣りは釣りですよ」って言いたくなります。

そうなんです。要は魚が釣れればいいんですよね。
それにしては魚によって道具がいろいろ違い、結構面倒です。
特にフライフィッシングはお店も少ないし、釣り場所も限られるのでちょっと大変。
でも、面白いですよ。

> 薪さ~ん、薪さ~ん、って、うちの息子みたいで、それにイライラする薪さんに笑っちゃいました。

おお、男の子って皆そうなのかしら。
イライラしていた頃が、懐かし~い。

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