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2次創作 「水族館で」

またまた変な話で、すみません。
おまけに私の妄想薪さん、やっぱり暗いし。




「はあ~」 岡部の溜息が、またひとつ増えた。まだ出発したばかりなのに、何回目の溜息だ?
電車が到着するアナウンスを聞いて、ホームから身を乗り出した子供の手を、「危ないだろう!」とあわてて引き戻したばかり。
今岡部はJRのホームにいて、小さい子供の手を引きつつ水族館へ向かう道中である。

前日、岡部は弟夫婦に「一樹を水族館に遊びに連れて行ってくれないか」と頼まれた。
一樹とは、弟夫婦の一人息子で保育園年長児。
次の休みに水族館に行く約束をしていたのに、夫婦共にどうしても抜けられない仕事が出来てしまった。
もう何回も約束を反故にしている。今回は守らないとさすがにまずい ということで、岡部にお鉢が回ってきた。
電話の向こうで土下座をするような弟の頼みに、たまたま明日が休みの岡部は「否」とは言えなかった。
「助かった! 明日の朝、一樹を兄さんの所へ送っていくから、よろしく。
 昼過ぎには家内の仕事が終わるはずだから、水族館で引き取るよ。」

たまにしか会わないのに、一樹は不思議と岡部に懐いていた。だからこそ、岡部に頼んできたのであろう。
しかし、頼まれた岡部にとっては、6歳の子供の世話など未知の世界で、出かける前から溜息が出た。
とにかく、怪我しないように、腹へらないようにしときゃ、なんとかなるか。

休日とはいえ 朝一番の水族館は、思いがけなく空いている。
常に駆け出そうとする一樹の手を、岡部はやっとのことで繋いでいた。
しかし水族館へ入った直後、結局その手は振り切られ、一樹は最初の水槽めがけて駆け出した。
岡部は「転ぶぞ」と言いながら後を追い、水槽の前に立つ。
思わず「ほう!」と声が出た。

それは渦巻くきらきらのダンゴと化した、みごとな数万匹のイワシの群れ。
回りにサメが泳いでいるので、自衛のため固まって群れている。
サメが群れに切り込む様に泳ぎ入ると、塊はきれいに2つに割れてサメをよける。
サメが通ったすぐ後から、群れは流れるように合体した。
誰も指揮する者はいないのに、数万匹が意志を一つにし統率された動きが見事。
まるで群れが1つの生き物であるように、きらめいて自在に動き姿を変えていく。

水槽にへばりつく一樹をそのままに、岡部は子供達の邪魔をしないよう、後ろで見張ることにする。
壁まで退いて、ふと横を見て固まった。薪が壁に寄りかかり、手を組んで水槽を見ている。
「薪さん...」
薪は岡部の一部始終を見ていたようで、視線を岡部に向けると、瞳だけで問いかけた。なんでおまえが子連れでこんな所に?
「ああ、あれは俺の甥っ子です。急な仕事で連れて行けなくなった弟夫婦に頼まれて、子守りですよ。
 もう6歳なんですけど、ぜんぜん言葉が通じない、というか言うこと聞かなくて大変です。
 で、薪さんこそ、どうしてこんな所に?」
「そうか、甥御さんか。てっきり、隠し子と遊びに来たのかと思った。
 どうしてこんな所にって..魚を見に来たんだ。水族館に来るのに、それ以外どんな理由がある?」
と言って視線を水槽に戻した薪の横顔をみながら、岡部はつぶやく。
「そりゃ、そうですけれど」 そんなことを、聞いているんじゃなくて...

薪はきらめくイワシを眺めながら、独り言のように言葉を続けた。
「休日ぐらい、無防備にぼんやりしたいからな。
 たまには外出して気分を変えたいけれど、どこへ行っても人が多い。人を見るのは第九だけで十分だ。
 人間以外を眺めて過ごせる、といえば水族館や動物園ぐらいしかないだろう?
 水族館や動物園は、いい。皆一生懸命に生きている。ただ、生きる事が目的で、それだけを考えて生きている。」
「このイワシもそうだ。こうやって群れの中にいることに一生懸命全力を傾けている。
 群れの一員としてこうやって守り守られ、あとは餌があれば幸せだろう。
 余計なことを何も思い悩むこともなく、そうやって一生を終えていく。」

岡部は薪の言葉が自分に向けられたものなのか判断つかず、返事をすべきなのか困惑する。
その時、一樹が次の水槽めがけて駆け出した。
「あ、一樹勝手に行くな。迷子になるぞ。」
と岡部は叫ぶと、「薪さん、お先に失礼します。」というが早いが、後を追う。
薪が片手をちょっと上げてそれに答える姿が、視野の片隅に映った。

岡部は子守りに、苦戦する。
いきなり行動する一樹に追い付くのは、なかなか容易ではない。
それにちょっと目を離すと、隣の子供と喧嘩を始める、人を押しのける、転ぶ、見失う。
そのたびに岡部は叫ぶ。「けんかするな」「人を押すな」「そら転ぶって言っただろう。」「一樹、どこ行った?」
やりたいことを止められた一樹は、岡部をぶって、泣いて、座り込んだ。
なれない子守りに泣きたいのは、岡部の方だ。
ああ、こいつ本当に人間か? 言葉が通じているとは、とても思えない。
なんで子供ってこう...手間がかかるんだ! 薪さんの何十倍も、大変だ。

それでも時々見せる無心な姿を、岡部はかわいいと思う。
口をポカンと開けて、心底不思議そうにマンボウを見つめる姿。
「おじさん! これ生きてるの?」とリーフシードラゴンを指差す姿。
「ヒトデって、ざらざら、ざらざらだった!」と飼育員に触らせてもらった感触を、いちいち報告する姿。
子供って初めてのことは、どんなことでも楽しむんだな。
手のかかる行動に苛立っているのは事実だが、こんな一樹は素直に愛おしく、笑顔を守りたいと感じている。
そう思うとは自分でも予想外で、それが岡部には少し可笑しかった。

一樹が、カラフルなカリブ海の魚たちに見とれ、そこから動かない。
岡部は壁際で、ほっと一息ついて回りをそれとなく見渡した。

先ほど一樹が走り過ぎた深海魚の水槽。暗く地味なためか、立ち止まる人もほとんどいない。
その水槽の前で、薪が壁にもたれて手を組んで水槽を眺めている。
深海を再現した、真っ暗で冷たい水。高圧や闇やエネルギー不足に耐えるため、独自の能力を発達させた異形の魚達。
生きるため、本来有毒である硫化水素やメタンすら食糧にして増殖する。
どんなに過酷な環境にあっても、生き残るためならなんでも利用し、貪欲に生きる深海生物。

それを眺める薪は、とても「ぼんやりして」いるとは思えない。
その闇に、その貪欲さに、抵抗しつつも魅せられているような、薪の姿。
岡部にはその姿が、何故かとても危なっかしく見えた。たかが、水槽を眺めているだけなのに。
薪の両肩を掴んで揺さぶり名前を叫んで、ここへ引き戻したい衝動に駆られる。
しかし、どこから引き戻す? 岡部は何の根拠のない衝動をかろうじて抑え、薪から目を引き剥がすと一樹の姿を探した。

昼を少し過ぎて、岡部たちは水族館の最後にたどりついた。
そこにはフードコードがあり、一樹になにか食わさなきゃいかん、と思いつく。
食事の乗ったトレイを手に空席を探すが、昼食時ではなかなか空席は見つからない。

探しあぐねた頃に、一角に座っている薪と目があった。薪はちょいちょい、と指で岡部を呼んでいる。
岡部が一樹の手を引いてたどり着くと、薪は自分が座る4人席の空き席を示して言った。
「岡部、ここに座れ。ぼくはもう終わるから。」
薪の前にあるほとんど減っていないコーヒーカップに、一瞬岡部は躊躇したが、今はそんなことも言っていられない。
「じゃあ、お言葉に甘えて、ご一緒に。薪さん。俺の甥の一樹です。
 一樹。この人はおじさんと一緒に働いている人で、薪さんって言うんだ。」
岡部は一樹を座らせながら、お互いを紹介した。
一樹がはにかみながら「こんにちわ」と挨拶し、薪は微笑んで「こんにちわ、一樹君」と返している。
岡部は今の穏やかな薪と、深海の水槽前の薪との落差に、くらくらと目まいがするような違和感を覚えた。
その一方温かい笑顔に、薪がどこからかちゃんと戻ってきた事を感じて、ほっと大きく安堵する。
ん?この感じ。さっき一樹がヒトデの報告をする顔を見たのと感じと..似ている?
おかしいぁ。薪さんは立派な大人で、ましてや俺より仕事が出来る人なのに。

一樹は一心不乱に、お子様ランチを食べている。
「薪さん、結構行くんですか? 水族館や動物園。」
「まあ、たまにな。」
「ぼんやりするために?」
「ああ。」
「本当に、それだけですか。」
「? 岡部、どうしてそんな事を聞く?」
「...いや、別に。薪さんがこんな所に来るのが、意外だったので。」
岡部には何故か言えなかった。
ぼんやりするために来ているなんて、信じられません。
傍から見る薪さんは、ここで思い出したくないことを思い出しているみたいです。
まるで、自分を罰しに来ている様に見えますよ。
水槽や動物に、思い出したくない感情を投影し、それを見ながら幾度でも反芻する。
年月で鈍る記憶のとげを、磨き直しているかの様です。

そんな岡部の思いも知らず、薪は頬づえをついて一樹の食べる姿を見つめていた。
「子供がご飯を食べている姿は、いいなあ。
 一心不乱に、ただ食べている。」

カシャ。シャッター音で岡部が我に返ると、薪が携帯で岡部達の写真を撮っていた。
何です? 岡部の疑問が顔に出て、薪が答える。
「岡部、ぼくがこういう所に時々来るのは、皆に内緒にしておけ。」
「どうしてですか?」
「おまえが聞いたみたいに、いろいろ聞かれるのがめんどくさいからな。
 もしおまえが漏らしたら...」
薪が何やら携帯でメールらしきものを打つと、岡部の携帯のメール受信音が鳴る。
岡部がメールを開けてみると...
”もし皆に漏らしたら、一樹君をおまえの隠し子として、今とった写真をばらまくぞ。
 皆はおまえとぼくと、どちらの言うことを信用するかな?”
という文章に、岡部と一樹の2ショット写真が添付されていた。

「薪さん! おれを..脅迫するんですか!」

(完)


えー、これは創作ですよ、創作。
実際に水族館に居ないものも、出てきます。

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コメント

【 いいです~(^^) 】
すぎやまださん こんばんは

水族館ていいですよね。西の方の水族館でいいとこありますか? 東のほうはですね、私はアクアマリンふくしまが好きです。イワシの大群とサメの同居が見られますよ。
大洗は新しくなってから、広すぎて疲れます。ペンギンショーもなくなっちゃったし・・・。
後は葛西ですかね。もう10年以上行ってませんけど、大きな水槽はここが最初だったかもしれません。

>薪はきらめくイワシを眺めながら、

薪さんと岡部さんが、しみじみ語っているその向こうで、イワシが阿呆のように口を開けているのかと思ったら、爆笑してしまいました。すいません。
でも、イワシって綺麗ですよねー。好きですよ、イワシ(食べるのも。とくに寿司とタタキが)

おっさん二人で子供の相手をして、ほのぼのしながらも、日常を少し離れて人生を静かに考えているところがすごく良かったです。

薪さんたら、お茶目ないたずらっ子! ぷぷぷ・・・(でもやっぱり、一人で水族館に来るのは、寂しいぞ~)

日本の水族館にいないのは、「カラフルなカリブの魚」? リーフィーシードラゴン? (これは見たことがあるような気がする)
それとも怪しげな深海魚ですか?

お邪魔しました。
【 Re: いいです~(^^) 】
第九の部下Y さん、いらっしゃ~い

> 水族館ていいですよね。西の方の水族館でいいとこありますか? 東のほうはですね、私はアクアマリンふくしまが好きです。イワシの大群とサメの同居が見られますよ。
> 大洗は新しくなってから、広すぎて疲れます。ペンギンショーもなくなっちゃったし・・・。
> 後は葛西ですかね。もう10年以上行ってませんけど、大きな水槽はここが最初だったかもしれません。

おお、第九の部下Y さんも水族館、結構好きですねぇ。
実は週末に葛西に行ってきたんですよ。
イワシのこの展示方法は初めて見たのですが、これはいいですねえ。飽きないです。
マグロもいいし、展示も工夫があって、良い水族館でした。

水族館、あまり行ったことがないんですよ。(水族館<動物園 なもんで)
一番近いのは海遊館なんですが、いつも混んでいるのでパスしてます。
海遊館ならば、ジンベイザメのお食事タイムが、お勧めです。

> でも、イワシって綺麗ですよねー。好きですよ、イワシ(食べるのも。とくに寿司とタタキが)

綺麗ですよねー。

> 薪さんたら、お茶目ないたずらっ子! ぷぷぷ・・・(でもやっぱり、一人で水族館に来るのは、寂しいぞ~)

薪さん、岡部さん相手なら、おちゃめ出来るんですよ!

> 日本の水族館にいないのは、「カラフルなカリブの魚」? リーフィーシードラゴン? (これは見たことがあるような気がする)
> それとも怪しげな深海魚ですか?

えー、そんな真剣に考えていただき、申し訳ないです。
「硫化水素やメタンを食糧とする」生き物、のことです。
高圧の深海で、400度ぐらいの高温の火山性熱水が噴出している所(チムニー)の回りの生き物、がそうなのですが、そんな環境水族館じゃ再現できないので。

またお越しくださいね~。
【 次は動物園で(笑) 】
水族館かあ・・
わたしも第九の部下Yさんのいう、アクアマリン福島、お勧めです。あそこにはトンネル状になった通路があって、周りをサカナが泳いでるんですよね。
初めて見たときには、足が地面から浮き上がるような感覚を味わいました。

すぎさん、動物園、好きなんですね。
実は、わたしの妄想のあおまきの初デートは、動物園なんです。
うちの薪さんは動物大好きで。子供よりも熱心に見てます。(ガキ)

すぎさんが書かれる、動物園の薪さんも見たいです。
もちろん、相手は岡部さんで。
【 Re: 次は動物園で(笑) 】
まいどです~

> わたしも第九の部下Yさんのいう、アクアマリン福島、お勧めです。あそこにはトンネル状になった通路があって、周りをサカナが泳いでるんですよね。

ほお~。足の下も水、ですか。
一度行ってみようかな。

> 実は、わたしの妄想のあおまきの初デートは、動物園なんです。
> うちの薪さんは動物大好きで。子供よりも熱心に見てます。(ガキ)

おお、初デートの動物園いいなあ。
動物園こそ、大人が行くところですよ!
早く読みたいなあ。

> すぎさんが書かれる、動物園の薪さんも見たいです。
> もちろん、相手は岡部さんで。

お、岡部さんと動物園... む、難しい...

またお越しくださいね。

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